深き海より、蒼き樹々の呟き

by 深海 蒼樹(ふかみ そうじゅ)

*

カテーテル検査よ、やはりお前もかぁ…って話(1)

      2020/05/08

 ずっと書いてきたとおり膵臓は相変わらずなわけなんだけれど、今度は心筋症の疑いということで検査入院を勧められ、このコロナ禍のなか大阪の病院に5日間お世話になってきた。
 早ければ2泊3日。先月末に外来初診を受け持ってくれた医師は、なんとか入院を回避しようと目論んでいたぼくにそう告げた。やっぱり入院はまぬがれないのか、僕はあきらめるしかなかった。 ひとりで受診していたなら、なんとか入院を回避できたかもしれないと今も思っている。だが、このときは急に同行すると言いだした妻が、片道3時間ほどの日帰り受診についてきていた。しかも、その話の流れで訊くのかってタイミングで僕を遮るように放った問いかけは、初対面の医師にしてみれば間違いなく「詰問」されているように感じただろう。妻はときおりものすごく前乗りな問いかけ方をする。案の定医師は、検査入院を勧めるだけではなく、それまでの間も運動はしない方がいいですと結論づけた。
 とにかく、もう一度運動がしたいなら(簡単に言うと、もう一度自転車に乗りたいなら)、検査を受けて身の潔白というか心臓の潔白を証明するしかなくなってしまったわけだ。

 ことのはじまりは、自転車のローラー練習中に失神したことだった。15分ほどローラーを回していた僕は、いつも以上の動悸と息苦しさに耐えかねて一旦自転車を降りて、呼吸が落ち着くのを待っていた。なにかおかしいな。やけに苦しい。頭がぼぉっとしてキーンと耳鳴りまでしてまわりの音がよく聞こえない。
 でもそれは今までだって何度か経験したことだった。遠くは中学時代、ゴール直前で4位に陥落した北摂地区800m走のゴール後、高校時代には中間か期末試験あとの久しぶりのサッカー部の練習中、視界がいきなり白黒の世界に切り替わりながらもコーナーからあがったセンタリングを見事にヘッドでゴールに叩き込んだ後、鮮明に記憶しているだけでも2回はこんなことが僕の人生で起こってきた。
 高校時代はサッカーの試合がはじまって体が慣れるまでの5分、いつもこんな感じだったような気がする。チームメイトの中川と、酸素が足りないと言いながら頭を押さえて苦しんでいた。今思うとどう考えても足りなかったのはウォーミングアップだろうって話なんだけれど。
 そんな昔ばなしに花を咲かせている場合ではなかった。そうだ、僕は失神した。生まれて初めての失神ではあったけど、それはまぎれもなく見事な失神だった、と思う。距離で言うなら、1万光年くらい彼方まで飛んだんじゃないかってくらい。飛距離の記録なら歴代6位入賞も夢ではないくらい、ものの見事に僕の意識は飛んだような気がする。
 それでも幸いなことに、飛んでいった意識は僕のところに戻ってきてくれた。僕が思っているほど遠くまでは飛んでなかったんだろうか。ただなんと言うか、意識が遠のいていくという自覚も、倒れるという恐怖も、そういった感覚の記憶がまったくない。倒れる直前から意識が戻るまでの数十秒間の記憶が、気持ち悪いくらいに抜け落ちている。

 1万光年彼方なのかすぐ足元なのかは判然としようもないけれど、僕は薄暗い車庫のコンクリートの床の上でどこかから戻ってきた意識と再会した。そのときの感覚としては、目が覚めたような感じだった。
 意識が戻ったとき、僕は一瞬自分がなにをしているのかまったくわからなかった。自分が横になっている理由よりも、自分が横になっているということすらピンとこなかった。
 えっ? なにしてるの?
 わからないなりにも、なにかが起こったというのはうっすらと自覚していた。しかも、よくないことが。
 でもここはどこ? 私はだれ?(って言うのは言い過ぎ。僕が僕であることはわかっていた)
 ただ、なにが起こったのかよりも、まず僕はここでなにをしているのかがわからない。僕はいま車庫の床に寝転んでいる? そうだ、寝転んでいる。 なぜ? なぜこんなところに寝転んでいる? それよりも僕はここでなにをしてたんだ? あっ、自転車が見える。ということは、僕は落車したんだ。えっ? いや、違う。僕は胸が苦しくなって一旦自転車を降りたはずだ。そうだ、自転車を降りていたんだから落車するはずがない。じゃあ、なぜ僕は床に倒れているんだ? ん? メガネはどこへいった?…

 なにかまずいことが自分の身に起こったという恐怖感に襲われながらも、なにが起こったのかがわからない。とりあえず、体を起こそう。このままここで横になっていてはいけない。汗をかいた体だってそのうち冷えてしまう。とにかく、もう一度立ってみよう。まだ頭が痛いような、動悸がおさまってないような、でも僕は大丈夫だ。大丈夫なはずだ。そうだ、立てたら大丈夫だ。あれ? 左手の薬指付近から血が出てる。でもほんのかすり傷だ。ほかは? 大丈夫だ。よし、立ち上がろう。

………カテーテル検査よ、やはりお前もかぁ…って話(2)(つづく)

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