深き海より、蒼き樹々の呟き

by 深海 蒼樹(ふかみ そうじゅ)

*

考えたとおりに生きなさい。そうしないと、いずれは生きたとおりに考えはじめてしまうから。

   

 ポール・ブールジェ(Paul Bourget)というフランスの作家がいたらしい。調べてみると、彼の生涯は1852年に開かれ1935年に閉じられた。そして当事、彼が著した『弟子』という作品は高い評価を受けていたらしい。モーパッサンとも親交が厚かったらしいのだが、絶版に次ぐ絶版により現在では彼の本を目にすることも難しくなっている。そんな彼をなぜ知ったかというと、彼が書いたという一文を目にしたからだった。

考えたとおりに生きなさい。そうしないと、いずれは生きたとおりに考えはじめてしまうから。

 文章の細部はその訳し方によっても多少の違いがあるようだ。そしてその解釈も、人それぞれであるとは思う。
 前半部の、「考えたとおりに生きなさい」に心惹かれるのか、後半部の「生きたとおりに考えはじめてしまう」に捉われるのか…。
 僕は、後半部がグッと腹にきた。自分に都合のいいように改竄される自身への戒めとして。

 人は一般的に言って自分が好きだ。もしくは、自分がかわいいと言ってもいい。誤りを認められる人間は少ない。たとえば、1年間信じてきたことからは脱却できたとしても、50年間信じてきたことから抜け出すのは難しい。うすうすそれが間違いだったと思っていても、自分の信じてきた50年間をあっさりと棒にふれる人は少ないはずだ。
 けれど、それこそが『生きたとおりに考えはじめて』しまってるってことではないんだろうか。信じた50年なり何年かを棒にふらないようにという意識が深層で働いた状態でものごとを見て考えてしまっているのではないか。本人はニュートラルにバイアスなしに考え判断しているつもりでも、それまでの自分を「誤り」だと断じて平気でいられるような自由な人間がどれだけいるというのだろう。
 過去の自分を否定してあらたな道に足を踏み入れるよりも、『僕は決して過去の自分の考え方やこれまでの自分に固執しているわけではない。僕が考えていることが真実であるのだから、あらためる必要がないだけのことだ。』と断じる方が絶対に簡単で楽だ。おそらく、そう言い放つあなたを非難する人は少ないだろう。逆に、今までと反対のことを言ってるじゃないかと、その変節を非難する人のなんと多いことか。勿論そのなかにはあなたの変節を求めていた人すらいるだろう。

 これからの自分が、いままでの自分と同じである必要はないのだ。なにも無理矢理に変節しろ、変わりつづけろと言っているわけではない。
 もしも、あなたが変わりたいと望むならあなたは変わっていいのだ。過去のあなたに囚われてこれからの人生を生きなければいけないわけではない。なぜなら、それはまぎれもなくあなたの人生なのだから。ということが言いたいだけだ。
 ブールジュもそう言いたかったのかは、さだかではないし、僕も自信がもてないけれど。

 

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