深き海より、蒼き樹々の呟き

by 深海 蒼樹(ふかみ そうじゅ)

*

羊と僕と王国の譚(4)

      2013/09/11

 彼女を、それが正しい人称なのか、僕にも自信はないけれど、僕はその羊を家の中に通すことにした。勿論、僕に邪な気持ちがあったわけではないことは、繰り返し断言しておく。

 リビングへとつづく長い廊下の途中で、僕は後ろからついてきている彼女を確かめるように振り返ってみた。やはりそこには、羊が、羊である彼女がいた。そして、僕が落胆とも安堵ともつかぬため息をついている間に、僕の足元をかいくぐるようにして、羊は僕の先を歩き、リビングにつくと慣れた感じでソファーに座った。僕としては、できればソファーは避けたかった。可能であれば、ダイニングのテーブルで少しばかり話でもして、お茶を飲んで帰ってもらうのがベストな気がしていたのだが、彼女には早々と帰る気はなさそうだ。

 「さて」
と、僕は、声に出して、彼女に言った。
 そして、その次につづける言葉を考えていなかった僕は、すぐに黙り込むしかなかった。
 仕方がないので、
 「さて」
と、もう一度、言ってみたら、今度は、次の言葉が出てきた。
 「コーヒーでもいれようか」
 コーヒー? 羊って、コーヒー飲むんだろうか? 大急ぎでネットに繋いで、Google先生に尋ねた方がいいかな? なんて、焦っていたら、本人が答えを出してくれた。
 え? 本人が?
 いや、なんとなくなんだけど、そうはっきりと、羊が言ったわけではないんだけれど、
 「ブラックで」
って、言われたような気がするんだ。
 ところで、羊って、「メー」って、鳴くんだっけ? 「メー」って鳴くのは、ヤギ? やっぱりネットに繋いだ方がいい?
 なんてまたオロオロとしかけていたら、
 「大丈夫よ」
って、諭されたような気がする。
 なんか、ソファーに深く腰掛けて、組んだ足をゆっくりと組みかえるような感じで。
 いや、実際に、ソファーに腰掛けた羊が、足を組みかえたわけではなくて、なんとなくそんな感じだって話。だって、スカートも下着もつけてない羊が、組んでた足を組みかえたりしたら…、なんかマズいものが見えてしまわないのか?
 やっぱり、コーヒーをいれにキッチンに行った隙に、ネットに繋ごうかな。こんなこともGoogle先生なら答えてくれるんだろうか?
 『エレガントに、見えそうで見えないように足を組みかえる方法<羊の場合>』とか。

つづく…羊と僕と王国の譚(5)

 - 物語みたいなもの, 羊と僕と王国の譚

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