深き海より、蒼き樹々の呟き

by 深海 蒼樹(ふかみ そうじゅ)

*

ふがいない僕は、真夜中に背中を丸めて、大きな溜息のような息を、ゆっくりと注意深く吐き出す

   

midnight

 iPhoneにイヤホンジャックをつないで、かれこれ2時間以上音楽を聞いている。
 インスツルメントではなくて、基本、歌詞のある日本語の曲を聞いているのだけれど、ふと、そこに溢れている言葉にたじろいだ。
 世の中は、いや、世界はこんなにも言葉で溢れているというのに、僕は、真っ白な原稿用紙の前でかなり長い時間、かたまったままだ。
 どれだけ長い時間かと言えば、おそらくは、既に35年ほど。
 漠然とではあるけれど、『何かを書きたい』という思いに駆られた遠い遠いあの日から数えれば、すでにそれくらいの年月が経っている気がする。

 勿論、この長い時間、なんのチャレンジもトライもしてこなかったわけではない。
 学生の頃に、友人たちと出した同人誌には、ひとつだけ物語を書いた。
 あれから数えても、30年。
 今となってはタイトルさえ覚えていない、あの物語の後、僕はひとつの物語すら完結させていないのだから、人生の半分以上を、書けないまま過ごしてきたことになる。
 沸々と湧く情熱と言うよりは、曖昧にまといついた『し忘れている何か』のように、僕は時折そのことを思い出して、ひどく落ち込む。
 多分、今夜はそういう夜なんだ。

 「深海、あとはテーマだけや」
 高校時代、僕の担任だった現国の教師は、夜遅くに酔っ払って電話してきて、僕にそう叫んだ。
 「書いてるものがあれば見せろ」
と、しつこく言われて、僕は内緒にしていた詩作ノートを、彼に渡した。
 「テーマを見つけろ。それさえ見つければ、おまえになら書ける」
 書けなかった男が、僕にそう請け負ってくれた。
 けれど、担任のアルコール臭い息が、電話線を通してさえ匂ってきそうな受話器に向かって、
 『テーマなんていらない。そんなものがなくても、言葉さえあれば、なんとでもなる』
と、僕はうそぶかなかっただろうか?

 あの頃の僕は、どんな世界を見ていたんだろう?
 そして、僕自身を、なにものだとうぬぼれていたんだろう?

 学生時代、安易な文学少年のなれの果てにはなりたくないと、友人たちと語り合った。
 『昔、私も、文学を志しておりまして………』
なんて厚顔無恥な台詞を言う大人が、もしくは、文学を『ネタ』にする大人が大嫌いだった。
 勿論、こんなにも長いあいだ、なにも書けないなんて、あの頃の僕には想像もできなかったけれど。
 そして、狭い下宿で何度も朝まで語り合った友人たちは、今は、どうしているんだろう?
 彼らは彼らで、今夜も人知れず、僕よりもずっと真剣に、得体の知れないなにかに向き合っているのかもしれない。
 ただ、僕が知らないように、誰もそれを知らないだけで。

 『まだなのか?』
という、誰かの声が聞こえる。
 『まだ、書けないのか?』
と、問われているのかもしれないし、
 『まだ、あきらめてないのか?』
と、嘲笑われているのかもしれない。
 どちらにしても、書けていない事実にかわりはない。

 ふがいない僕は、真夜中に背中を丸めて、大きな溜息のような息を、ゆっくりと注意深く吐き出す。
 悔しさをすべて吐き出して、楽になりすぎないように気をつけながら。

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