深き海より、蒼き樹々の呟き

by 深海 蒼樹(ふかみ そうじゅ)

*

またしても、村上春樹の新刊のタイトルがひどかったので、これまでのタイトルを調べてみた

   

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 前回の翻訳短篇集についても、恋しくて – TEN SELECTED LOVE STORIESという記事で文句じみたことを述べたんだけれど、9年ぶりの短篇集の出版となるらしい、村上春樹の新刊書のタイトルが、これまたちょっと違和感がありまくりなもので、ついついまたひとこと書きたくなってしまった。
 9年ぶりの短篇集のタイトルが、『女のいない男たち』だというのだ。
 今回もご丁寧にAmazonさんがレコメンドして、早々と教えてくれたんだけれど、一瞬、なんの本なんだろう? ノンフィクション?って思ったくらいには、違和感があったし、文字通りなんだかすごく寂しい男たちを想像してしまった。
 もしくは、なんでわざわざ、ヘミングウェイの作品のタイトルをそのままもってくるのだろうと、ほんの少しだけれど腹立たしくもあるのだ。
 勿論、僕はまだその作品を読んでもいないのだから、そうそう慌てて何かを言うのは性急すぎるのかもしれないけれど、村上春樹だから、タイトルもなんて言うか、もう少しなんとかしてほしいのだ。

 前作の長編小説である、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』というタイトルにしても、正直、僕は不本意ではあった。
 それが、村上春樹の長編小説のタイトルではなく、誰か別の作家の小説のタイトルであるなら、それはそれでよかったのだけれど。
 拗ねているわけではないのだけれど、いや、拗ねているんだろうか? なんだか僕はしっくりこないというか、承服しかねるのだ。それが、村上春樹の小説のタイトルであるなら。
 今回のタイトルがヘミングウェイからの借用であるように、『巡礼の年』というのは、リストが作曲したピアノ曲のタイトルをそのまま使っているわけで、敢えて意地悪に言えば、なんだか手抜き感を感じてしまう。

 なんてことを考えていたら、では、どんなタイトルを村上春樹はつけてきたのだろう? と、ふと思った。
 ということで、少し調べてみた。
 

  • 風の歌を聴け
  •  
  • 1973年のピンボール
  •  
  • 羊をめぐる冒険
 初期の3部作だ。悪くはない。『1973年のピンボール』は、どうしても、大江健三郎の『万延元年のフットボール』がチラついてしまうけれど、なんとかセーフだ。
 ちなみに、その後の作品名を並べると、こうなる。
 
  • 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド
  •  
  • ノルウェイの森
  •  
  • ダンス・ダンス・ダンス
  •  
  • 国境の南、太陽の西
  •  
  • ねじまき鳥クロニクル 第1部 泥棒かささぎ編
  •  
  • ねじまき鳥クロニクル 第2部 予言する鳥編
  •  
  • ねじまき鳥クロニクル 第3部 鳥刺し男編
  •  
  • スプートニクの恋人
  •  
  • 海辺のカフカ
  •  
  • アフターダーク
  •  
  • 1Q84 BOOK 1
  •  
  • 1Q84 BOOK 2
  •  
  • 1Q84 BOOK 3
  •  
  • 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年
 こうして並べてみると、『ノルウェイの森』が出たのが、僕が感じていたよりもかなり早かったことに驚かされる。長編小説としては、5作目だったのか。1979年デビューからして、8年目にあたる1987年の出版だった。
 そして、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』だけ、なんだかやけに質感が違って感じられる。

 では、短篇集は、どうだろう。
 

  • 中国行きのスロウ・ボート
  •  
  • カンガルー日和
  •  
  • 螢・納屋を焼く・その他の短編
  •  
  • 回転木馬のデッド・ヒート
  •  
  • パン屋再襲撃
  •  
  • TVピープル
  •  
  • レキシントンの幽霊
  •  
  • 神の子どもたちはみな踊る
  •  
  • 東京奇譚集
  •  
  • 女のいない男たち

 敢えて、まだ出版されていない『女のいない男たち」も並べてみたんだけれど、字面としては、それほど問題はないんだろうかという気も、正直してきた。
 けれど、『女のいない男たち』と音として読んでしまうと、やはり、なんだかなぁ~という気持ちになってしまう。
 もっと、違うものが、欲しいのだ。

 そんなに違和感があるのなら、わざわざ村上春樹を追いかける必要はないんじゃないかと、キミは言う。
 求めたいものがあるなら、それは、村上春樹にではなく、もっと別の作家を探せばいいではないかと。
 それを、いちいち村上春樹に求めて、違和感だなんだと好き勝手言うのは、果たして正当なんだろうか?

 思い起こしてみれば、『風の歌を聴け』を読んだ時、僕は19歳だった。自分でも意外だったのだけれど、ー僕としては、『ノルウェイの森』以後、そんなに丁寧にトレースしてきたつもりはなかったー、にもかかわらず、ここに挙げた長編小説も短篇集だってすべて持っているし、全部読んでいる。一応だけれど。
 そのことに、僕自身が一番驚いてしまった。
 そして、ここには挙げなかった『象の消滅』や『めくらやなぎと眠る女』という逆輸入のような形になった海外で出版された短篇集だって持っている。しかも、身の程知らずにも、”The Elephant Vanishes” “Blind Willow, Sleeping Woman”だって持ってるし、”Kafka on the shore”だってあるし、”La course au mouton sauvage”という最初のページすら覚束ないフランス語訳のペーパーバックだってある。

 困ったもんだ。こんなにも僕は村上春樹が、好きだったらしい。
 しかし、ここのところ、そのタイトルは気にくわない。重ね重ね、困ったもんだ。

 話は戻るけれど、9年ぶりに短篇集が、出るらしい。
 タイトルは、ちょっと気にくわない。
 でも、Amazonが薦めてくるから、実はすでに予約してしまった。
 そして、なんだかんたと言いつつ、ひょっとしたら、僕はその到着を待ち遠しく思っているのかもしれない。
 ほんとうに、困ったもんだ、返す返すも。

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