深き海より、蒼き樹々の呟き

by 深海 蒼樹(ふかみ そうじゅ)

*

羊と僕と王国の譚(3)

      2013/09/11

 そうだ、僕は、確かに、その羊らしき訪問者にむかって、「チェンジ」と言葉をかけてみたのだけれど、それが聞こえたのか聞こえていないのか、僕には確信がもてない。ただ、なんだか、彼女は(これは僕の思い込みに過ぎないかもしれないけれど、根拠はないものの全体の雰囲気からして、雌の羊のような気がしてならないのだ)、首を横に振って、柔らかな拒否をしたような気もする。

 これは僕の勝手な想像だけれど、
 「わかってるな? 今夜は大忙しで人手がなくて、おまえにまで出番がまわってきたわ けだから、たとえ『チェンジ』って言われても、簡単に引き下がるんじゃないぞ、しっ かりとねばるんだぞ。なんなら、聞こえないふりをしたっていい。とにかく、おまえの 売り上げのためにも、なんとかしてこい」
 なんて、ボスにハッパをかけられて送り込まれてきたのかもしれない。

 それとも、彼女は超売れっ子だったりするのだろうか? 僕は、正直、そういう方面について、いささか知識不足のきらいがあるし、正直に言うならAVなんてものも、ほんっと、長い間見たこともない。
 ひょっとして、今は、羊が、きてるのだろうか? 羊が、はやりなのか?
 そして、間違いにしても、羊とベッドインできる僕は、ラッキーなんだろうか?
 いやいや、待ってくれ。僕は、ひとつの仮定として、考えてみる。もしも、そう、もしもだ、僕が羊とベッドインした場合、僕はこれからの人生において、動物園や牧場で羊を見るたびに変な気持ちになってしまうのではないだろうか。テレビのCMに羊の映像が流れたり、もしくは、冬になって羊毛のセーターを押し入れから引っ張り出すたびに、少し照れくさいような、甘酸っぱいような、かすかな欲情をおぼえなければならないということだろうか。
 はっきり言っておくが、そんなこれからの人生はイヤだ、と、少なくとも僕は思う。

つづく…羊と僕と王国の譚(4)

 - 物語みたいなもの, 羊と僕と王国の譚

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

  関連記事

no image
砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない

 夏休みも後半にさしかかった昼下がり、中学3年生になる娘と僕は、冷蔵庫でよく冷え …

no image
キンモクセイ

 今年はいつまでも暑くて暑くて、いつになったら夏が終わるんだろうなんて心配しなが …

no image
羊と僕と王国の譚(5)

 そもそも、羊は何をしに僕のところにやってきたんだろう? という、最初の、根本的 …

no image
傘はあるけど…

 今年の梅雨は、早々と梅雨入り宣言がされたにもかかわらず、雨が少なくて、楽しみに …