深き海より、蒼き樹々の呟き

by 深海 蒼樹(ふかみ そうじゅ)

*

蝋梅は、梅ではないらしい

   

 先日、娘と夕飯を食べながらテレビニュースを見ていたら、どこかのお寺の境内のようなところに咲く、黄色い花が紹介されていた。
 なんだかその花を、僕は梅だと思ったのだ。枝ぶりと言い、その花の形といい、少し早いとは思いながらも、早咲きの梅なら今頃咲いてもおかしくないような気がした。
 roubai
 ナレーションはうまく聞こえなかったのだけれど、「ロウバイ」という文字が流れた。どうやら、それが花の名前らしい。
 僕は、我が意を得たりとばかりに、娘に言った。
 『やっぱり、梅の花みたいだね。おそらく、ロウバイとは、老いた梅、「老梅」とでも書くんだろう』
 しかしながら、カメラが軽くパーンして、木の幹に取り付けられた札にピントが合うと、「蝋梅」と黒々とした文字が書かれているのがわかった。
 娘が、ニヤリと笑いながら、僕の方を横目で見た。
 僕は、照れ隠しに、咳払いをひとつした。
 「ロウバイ」は、漢字では「蝋梅」と書くということを、僕は学んだ。

 漢字表記を学んだついでに、こっそりと調べてもみた。
 花弁の色が、蝋のような色だから、蝋梅というらしいこと。
 花弁が、蝋色? 蝋色って、どんな色だろう?
 ということで、更に調べると、その色は、カラーコードで言うと、#2b2b2bであることがわかった。
 ウェブページのデザイナーかコーダーでもなければ、カラーコードで言われても、多くの人は困ってしまうだろう。#2b2b2bを単純に言うと、黒だ。
 そうか、花弁が黒色だから、蝋色なのか………納得、納得? いや、もう一度、写真を見てみよう。
 花弁とは、別名、花びらのことだ。この花びらが、黒いか? どこから見ても、冒頭にも書いたように黄色いのでは、ないだろうか?
 だいたい、今回のWikipediaだっておかしい。
 蝋梅を、「黄色い花を付ける落葉広葉低木」と説明しておきながら、その名前の由来のところでは、「花弁が蝋のような色であり」って、おかしいよね。
 確かにおかしいはずだけれど、僕にはそれ以上なにも言うことはない。
 ただ、蝋色というのが、黒であり、カラーコードで言うと、#2b2b2bであることを知ったというだけのことだ。
 ついでに言うと、Wikipediaによる、蝋梅の名前の由来のもうひとつは、臘月(旧暦の12月)に花が咲くことによるらしい。

 であったとしても、なんだかモヤモヤ感が拭い切れないのは、僕だけだろうか?
 蝋梅は元々が中国原産の植物であるのだが、中国名においても、花の名前は、蝋梅と書かれていたらしい。
 そして、僕はついに、もっとしっくりとくる由来を発見した。
 「蝋細工のような、梅に似た花」だから、蝋梅という名前がついたという説明だ。
 とりあえずは、こっちにしておくかな。
 僕には、どっちがどうとか言えるほどの、ほかの知識もないのだから。

 それはそうと、蝋梅は、梅という文字をもちながらも、梅ではないということについてだった。
 Wikipediaにばかり文句をつけるわけではないけれど、蝋梅の『蝋』の説明ばかりで、『梅』の説明はないのだ。梅ではないという説明はあるけれど。
 だとしたら、「梅に似た花」だから、「梅」という文字をつけたと考えるほうが、なおさらしっくりとくる気がする。
 テレビニュースを見て、「梅の花だ」と思った僕自身も、あながち間違いではなかったということになる。
 そして、梅ではないものに、梅の文字を冠することや、◯◯ではないのに、◯◯の文字を冠することはよくあることでもある。

 とっさに思いついたのは、河豚は決して豚の一種ではないし、海豚だって決して豚の一種ではないということだ。
 河豚は、「ふぐ」だ。そして、海の豚は、「イルカ」だ。
 イルカを見て、「上手に泳ぐ豚だなぁ」と思う人は、おそらくいない。
 ふぐとイルカには共通点があるにしても、ふぐと豚、イルカと豚は、根本的なものが決定的に違うはずだ。
 なんとなく小太りということ以外は。

 ほんとうに、名前というものは、厄介だ。
 梅でないものに梅とつけ、豚でもないものに豚とつける。
 もしくは、最近知った、こんな話も思い出した。
 竹内栖鳳という日本画家の代表作に、『班猫』という作品がある。
 まだら模様の猫が、首だけをこちらに向けて振り返っているという作品だ。
 そう、まだら模様の猫だから、班猫なのだ。

 ん? しかし、なにかが微妙にひっかかる。
 現在、まだらを示す漢字として一番しっくりくるのは、「斑」という文字のはずである。
 だから、『斑猫』と書くのが、正しい気がする。
 けれど、栖鳳の箱書きに、『班猫』と書かれていたということで、この作品は敢えて『斑猫』と改められることなく、『班猫』として扱いつづけられているということだった。
 まことにもって、厄介きわまりない。

 - 日記みたいなもの ,

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