深き海より、蒼き樹々の呟き

by 深海 蒼樹(ふかみ そうじゅ)

*

羊と僕と王国の譚(2)

      2013/09/11

 待たせていることを申し訳なく感じながらも、ドアを開ける前に、僕は覗き窓から外の様子をうかがってみた。しかし、なにも見えなかった。
 僕がドアを開けないので、訪問者はもう立ち去ったってことなんだろうか。それとも、外の闇が深すぎて、見えないだけなんだろうか。
 外の闇が、深い? って、ところで、今は、何時なんだろう?
 と、一瞬考えたけれど、一瞬後にはそんなことは、忘れていた。

 内側のロックをはずし、僕はドアを外側に開いた。
 やはり、誰も、いない。

 僕は、がっかりと肩を落として去っていく誰かの後ろ姿を探すように、遠くを見た。そして、あまりに遠くを見ようとして体のバランスを崩して、ドアのノブを握ったまま、外へ一歩よろめくように踏み出した。
 その踏み出した足元に、誰かがいた。
 足元に?

 「誰だい?」
 僕は、心の中で呟いた。つもりだけど、ひょっとしたら、声に出してそう言ったかもしれない。
 返事は、なかった。

 うずくまっているその誰かに向かって、僕は、今度ははっきりとこう尋ねた。
 「何か、ご用ですか?」
 暗闇の中で、誰かが、意識的にこっちを見上げたような気がして、僕は、その誰かをじっと見つめた。
 1,2,3………10

 10秒後、僕はそれが羊であることを確信した。
 えっ? 羊?

 僕は、まだ夢の中にいるのだろうか。
 それとも、いつも以上に疲れ果てていた僕は、台所のテーブルに突っ伏してうたた寝を始めてしまう前に、どこかへ電話をしたんだろうか。
 たとえば、動物専門のデリバリーヘルスとか…?
 もしくは、動物コスプレのデリバリーヘルスとか…?
 もしくは、普通のデリバリーヘルスとか…、それで人間の女の子は全部出払っていなかったんで、獣姦マニア用の羊がやってきた、とか?

 どうでもいいことだけれど、僕は、今までの人生でデリバリーヘルスを頼んだことはない。頼んだことはないけれど、テレビやラジオ、雑誌で、だいたいのシステムは理解できているつもりだし、ある程度の知識も持ってはいる。

 「チェンジ」
 ためしに、僕は、羊にむかって、言ってみた。

つづく…羊と僕と王国の譚(3)

 - 物語みたいなもの, 羊と僕と王国の譚

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

  関連記事

no image
ドライブ!ドライブ!ドライブ!

 やっと雪が溶けて、春めいた日々がつづきはじめた頃、職場に向かう国道を走っている …

no image
神戸を歩きながら、デタッチメントもしくは村上春樹について考える3

 いつか君と歩いた神戸の道を黙って歩いていると、僕はいつしかあの頃の僕になってい …

no image
羊と僕と王国の譚(5)

 そもそも、羊は何をしに僕のところにやってきたんだろう? という、最初の、根本的 …

no image
とある秋の散歩

 よく晴れた秋の休日、僕たちは、気ままな散歩を楽しんでいた。テレビニュースでも盛 …