深き海より、蒼き樹々の呟き

by 深海 蒼樹(ふかみ そうじゅ)

*

恋しくて – TEN SELECTED LOVE STORIES

      2015/10/01

loves

 Amazonから、メールが届いていた。それ自体は、いつもの、購入履歴からのリコメンドであり、別段珍しいことでもない。しかし、今回のメールは、一瞬、僕の目をそこに釘付けにした。だって、そのメールは、僕のメールボックスの受信トレイの中に、こんな風に並んでいたのだから。

 村上春樹の新刊 恋しくて – TEN SELECTED LOVE…

 「村上春樹の新刊」という文字を見たときには、(えっ? もう新刊が出るの?『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』が発表されたのは、ついこの間の、今年の春だったというのに)と、素直に驚いた。

 しかし、Amazonの詳細説明を読んでみると、その内容は、

  村上春樹が選んで訳した9編のラブ・ストーリー + 書き下ろし短編小説

ということらしい。

  • マイリー・メロイ 「愛し合う二人に代わって」
  • デヴィッド・クレーンズ 「テレサ」
  • トバイアス・ウルフ 「二人の少年と、一人の少女」
  • ぺーター・シュタム 「甘い夢を」
  • ローレン・グロフ 「L・デバードとアリエット」
  • リュドミラ・ぺトルシェフスカヤ 「薄暗い運命」
  • アリス・マンロー 「ジャック・ランダ・ホテル」
  • ジム・シェパード 「恋と水素」
  • リチャード・フォード 「モントリオールの恋人」
  • 村上春樹 「恋するザムザ」(書き下ろし)

 残念ながら、僕が最初にそんなはずはないと思いながらも、心の底ではかすかに期待した、長編小説の新刊本が出るということではないようだ。

 しかし、だ………。それにしても…、『恋しくて』って………、なんだろう?
 僕は、どうしたら、いい?

 まぁ、それが、村上春樹の長編小説のタイトルでないことがわかって、多少ホッとしたとは言え…、それでも、どうなんだろう?
 それが、彼が選出して翻訳した短編集のタイトルであるとしても。どうなんだ?

  『恋しくて』

 なんだか、CDのジャケットタイトルでは、よく見かけたような気がする。

  • 『恋しくてー恋人たちのバラッド特集』
  • 『メロディアスジャズ:恋しくて』
  • 『癒しのオルゴール:恋しくて』
 CDショップの店頭に置かれた、コンピレーションアルバムを集めたセール用のワゴンの中で、よく目にするようなタイトルだ。

 たとえば、

  恋しくて – TEN SELECTED LOVE STORIES

の、STORIESをSONGSに変えて、

  恋しくて – TEN SELECTED LOVE SONGS

としても、なんの違和感もないくらいに、陳腐だ。
 そして、その陳腐さは、あまりにもなんの変哲もない、陳腐の2乗、陳腐な陳腐さだ。

 別の言い方をしよう。このタイトルが僕にもたらしたものは、一抹の口惜しさを伴う違和感だ。こんなにもなんのざらつきも感じさせない、動揺も、心の波紋も起こさない、のっぺらぼうな言葉に対する違和感。
 少なくとも、それは、村上春樹の本なのだ。たとえ、それが、コンピレーションアルバムならぬ、村上春樹が選んだ作家たちの短編小説のコンビレーションブックであったとしても。

 ほんとうに、このタイトルでいいんだろうか?
 ほんとうに、このタイトルしかなかったのだろうか?

  恋しくて – TEN SELECTED LOVE STORIES

 なんだか、僕は、とっても残念な気がする。

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